小説 (story)
11359 ふたりの知る限り、夫婦のあいだに諍いのあったためしはなく、ふたりは仲むつまじいとしか思えなかった。
11360 以上のことは女中たちの証言の大要であるが、マーティン警部に答えた言葉では、扉という扉はすべて内側からしっかりと鍵がかけられてあって、誰かが家の中から逃げ出したはずはない、とのことであった。
11361 それからホームズの問いに対しては、火薬の臭いがしたのは、一番上の自分たちの部屋を飛び出したときであった、と答えた。
11362 「この事実を、よく覚えておいてください。」と、ホームズは捜査仲間に言った。
11363 「今度は、部屋を徹底的に検分する時間です。」
11364 書斎は小さな部屋であった。
11365 三方には本棚があり、書き物机は何の変哲もない窓に向かって置かれ、そこから庭が見渡せた。
11366 まず我々は第一にこの不幸な地主の遺体を調べた。
11367 そのがっしりとした体躯が、部屋を横切るように倒れていた。
11368 着衣は乱れており、あわてて起きたことを思わせた。
11369 弾は正面から撃たれ、心臓を打ち抜いたあと、体内に残ったらしい。
11370 即死で苦しむ暇もなかったはずだ。
11371 硝煙は化粧着にも手にも残っていなかった。
11372 老医師の話では、妻も顔にはそのあとがあるものの、手にはなかったとのことだ。
11373 「手にないだけでは何もわからない。
Go to Dashboard (guest)