小説 (story)
11280 「実はリドリング・ソープ荘園に向かう途中で、何が起こったのかまだ知らないのです。」
11281 「恐ろしい事件ですよ。」と駅長が言う。
11282 「ヒルトン・キュービット氏とその奥さんが撃たれたのです。
11283 奥さんが旦那さんを撃って、それから自分も撃ったというのが、召使いの話です。
11284 旦那さんの方は息がなく、奥さんももうだめでしょう。
11285 どうもまったく、ノーフォークの旧家、名門の末裔だというのに……」
11286 ホームズは一語も発せず馬車へ駆け込み、それから七マイル以上の道中、決して口を開かなかった。
11287 私は、ホームズがこれほど落胆しているのを、そう見たことがない。
11288 町から車に揺られているあいだずっと落ち着かない様子で、朝刊にただじっと不安な視線を落とすホームズを、私は横からながめていた。
11289 そして予想した中でも最悪の結果に至っていることがわかった瞬間には、茫然自失のていであった。
11290 座席にもたれかかり、ホームズは先の見えない物思いに沈む。
11291 もちろん馬車の両側には、興味深い眺望が広がってはいる。
11292 つまり、我々が今走っているのは、イングランドでも有数の田園地帯である。
11293 まばらな人家がその現在の人口を思わせ、一方で、どちらを向いても、尖塔を持つ教会が、緑広がる風景のなかにいくつもそびえ立っている。
11294 旧東アングリア王国の栄枯盛衰を物語るながめだ。
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