小説 (story)
11240 その仕事に没頭するあまり、私の存在などどこへやらという風であった。
11241 時には順調で口笛を吹いたり口ずさんだり、また時には難渋してじっと座り込み、眉をひそめ目をうつろにさせることもあった。
11242 やがて最後には椅子から飛び上がり喜びの声を上げ、手をこすり合わせながら部屋中を歩き回る。
11243 それからホームズは海外宛の長い電報を書く。
11244 「これの返事が思った通りなら、君はまたひとつ愛くるしい事件を君の記録に加えられるよ、ワトソン。」と言う。
11245 「明日にはふたりでノーフォークへ行き、あの依頼人が思い悩む謎に対して、はっきりしたことが告げられるものと思う。」
11246 正直、私は心躍る思いだった。
11247 しかしわかっている、ホームズはいつも自分の頃合と流儀で種明かしをしたい人間なのだ。
11248 だから、解き明かすのにちょうどいい時がくるまで待つことにした。
11249 だが返信はなかなか来なかった。
11250 もどかしくも二日が過ぎ、ホームズは呼び鈴にずっと耳を傾けていた。
11251 二日目の夕べに、ヒルトン・キュービットから手紙が一通届いた。
11252 それによれば、その後の身辺は静穏だが、その日の朝、また日時計の上に長い書き込みがあったからと、その写しが同封されていた。
11253 この通りだ。
11254 ホームズは数分のあいだ、この奇怪な帯状の絵に見入っていたが、突然声を上げて立ち上がった。
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