小説 (story)
11193 『どうしてもお気になさるのでしたら、ヒルトン、いっそ旅に出ましょう—ふたりで。
11194 そうすれば、わずらわしいことからも逃れられますから。』
11195 私は言いました。
11196 『なに、ほんのいたずらのために自分の家から逃げたとあっては、まったく世間の笑いものではないか。』
11197 『とにかく寝室に戻りましょう。』
11198 と妻が言います。
11199 『色々考えるのは、朝でもよろしいでしょう?』
11200 そのとき、妻の顔にさっと月の光が差して、いっそう青白く見えました。
11201 妻の手が私の肩をぐっとつかんだとき、物置小屋の陰で、何か動いているのに目がとまりました。
11202 何かさっと動く黒い影が、角のあたりをはい回って、戸口の前にうずくまったのです。
11203 私はやにわに拳銃を持って飛び出そうとすると、妻は両腕でしっかりと私を抱きとめて、ふるえるような力で押さえるのです。
11204 私は妻を振り放そうとしましたが、妻も必死で、やっと振り払って物置へ行ったときには、もう姿がありませんでした。
11205 しかし、確かに何かのいた形跡があって、扉の上には、例の踊る人形があったのです。
11206 前二回と同じ絵で、さきほどの紙に写した通りです。
11207 それから周囲をくまなく探しましたが、何の痕跡もありません。
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