小説 (story)
11089 その代わり、あなたは、わたくしの言葉を信じて、妻になるより前のことは口を閉ざしても構わない、そうおっしゃってくださらねばなりません。
11090 もしそれでこのお約束が無理だとおっしゃるなら、どうぞわたくしをこのまま残してノーフォークへお帰りください。』これは私どもの結婚の前日、妻が私に言った言葉です。
11091 それで私は妻の言葉をそのまま受け入れて、その後もこの約束をかたく守ってきました。
11092 そしてその後私どもはこの一年のあいだ、結婚生活を続けて参りましたが、私どもは実に幸福でした。
11093 しかし一ヶ月ほど前、六月の末に、私ははじめてわざわいの兆しを見たのです。
11094 その頃、妻はアメリカからの手紙を受け取りました。
11095 アメリカの消印があったんです。
11096 そのとき、妻の顔は気絶しそうなほどに真っ青で、手紙を読むと、それをそのまま火の中に投げ込んでしまいました。
11097 その後、妻は別段そのことについて何も言いませんでしたし、私もまた約束に従って、そのことについては一言も触れませんでした。
11098 しかし妻は、それ以来ずっと、何か不安げで—何ごとかにびくびくしているようでした。
11099 どうか頼ってくれ。
11100 ここに最高の伴侶がいるじゃないか……でも、妻が言い出さなくては、こちらから切り出せない。
11101 わかってください、妻は誠実な女性なのです、ホームズさん、もし過去に何かいざこざがあるとしても、妻の落ち度ではないはずです。
11102 私はノーフォークの田舎者にすぎませんが、それでも英国随一の旧家だと、妻も存じておりますし、結婚前から認めておりました。
11103 まさかその妻が、私の家名を汚すなどありえません。
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