小説 (story)
11067 「これは実に興味深い、まれな事件となりましょう。」
11068 ホームズが言った。
11069 「ヒルトン・キュービットさん、お手紙のうちで、二三、具体的なことを書いておいででしたが、この友人、ワトソン博士のためにもう一度お話いただけると幸いです。」
11070 「どうも私は話し下手でして、」
11071 その依頼人は緊張のため、その硬く大きな手をもじもじさせながら話を始めた。
11072 「わかりにくいところは、その都度お訊ねください。
11073 昨年、私が結婚したところから始めましょう—いえ、まずその前にお耳に入れておきたいのですが、私の家は、決して裕福ではありませんが、ここ約五世紀の間は今のリドリング・ソープに住んでいて、ノーフォークのあたりでは第一の旧家だということです。
11074 昨年の記念祭の折、私はロンドンへ来て、ラッセル・スクエアの宿泊所に滞在しました。
11075 それは私の教区で牧師をやっているパーカーさんが滞在していた関係からです。
11076 そうするとそこに、アメリカの若いご婦人がいて—パトリックという名前で—エルシィ・パトリックです。
11077 いろいろあって私どもは知り合い、帰らねばならぬころには、もう、これでもかというくらいに、恋に落ちておりました。
11078 それで私どもは早速、結婚の手続きをすませ、夫婦としてノーフォークに帰りました。
11079 おかしいと思われるでしょう、ホームズさん。
11080 こんな旧家の人間が、こんなふうにして、相手の過去も家族も知らないままに結婚してしまうなんて……しかし、妻をご覧になり、人となりを知ってくだされば、ご理解いただけるかと思います。
11081 とにかくあれは真面目です、エルシィは。
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