小説 (story)
11059 「それは私じゃないんです、ホームズさん。
11060 その、私の妻が。
11061 これを見て、妻が卒倒しまして。
11062 あれは何も言いませんが、目がおびえているのです。
11063 ですから、私は、これを最後まで調べたいと思ったのです。」
11064 ホームズは紙切れを取り上げて、日の光に透かしてみせた。
11065 それはメモ帳から破り取ったもので、鉛筆で次のような絵が描かれていた。
11066 ホームズはしばらくのあいだ、それを調べていたが、やがて丁寧に折りたたみ、自分の手帳のあいだに挟んだ。
11067 「これは実に興味深い、まれな事件となりましょう。」
11068 ホームズが言った。
11069 「ヒルトン・キュービットさん、お手紙のうちで、二三、具体的なことを書いておいででしたが、この友人、ワトソン博士のためにもう一度お話いただけると幸いです。」
11070 「どうも私は話し下手でして、」
11071 その依頼人は緊張のため、その硬く大きな手をもじもじさせながら話を始めた。
11072 「わかりにくいところは、その都度お訊ねください。
11073 昨年、私が結婚したところから始めましょう—いえ、まずその前にお耳に入れておきたいのですが、私の家は、決して裕福ではありませんが、ここ約五世紀の間は今のリドリング・ソープに住んでいて、ノーフォークのあたりでは第一の旧家だということです。
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