小説 (story)
11046 その人だとしても、僕は驚かぬよ。」
11047 重々しい足取りが階段に聞こえたかと思ううちに、一人の紳士が入ってきた。
11048 背が高く、血色も良い、ひげも綺麗に剃った紳士で、その澄んだ目、健康なほおは、ベイカー街の霧の中からはるか離れたところで暮らす人を思わせた。
11049 その紳士が部屋の中に入ってきたとき、どこか、きつくさわやかですがしがしい、東海岸独特の香りが漂ってくるようだった。
11050 紳士が我々ふたりと握手を交わし、さて腰掛けようとしたとき、不思議な記号の書かれた紙に目をとめた。
11051 私が見たあと、机の上に置きっぱなしにしてあったのだ。
11052 「ああホームズさん、これをどうお考えですか?」と紳士は声を振り絞る。
11053 「あなたは奇妙奇天烈なことがたいへんお好きだそうですが、きっとこれより奇妙なものはご覧になったことがないでしょう。
11054 前もってお送りすれば、あらかじめお考えになられるだろうと思ったのです。」
11055 「確かに、いくぶん妙ではあります。」とホームズが言う。
11056 「初見では、子どものいたずら描きのようにも見える。
11057 でたらめな人形が大勢で、書かれた紙の上を並んで踊っているようでもある。
11058 なにゆえ、かくも異形なオブジェを、重くお考えになるのですか?」
11059 「それは私じゃないんです、ホームズさん。
11060 その、私の妻が。
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