小説 (story)
11012 「では、この件について、君に証文を書いてもらわねば。」
11013 「なぜかね?」
11014 「五分後には、君はきっと『ひどく簡単な話だ』などと言うからだ。」
11015 「いやいや、そんなことは言わんよ。」
11016 「その、ワトソンくん。」
11017 ホームズは試験管を立てかけて、教授が講堂で学生たちに講義でもするていで話し出した。
11018 「それぞれ前後をつなげて、ひとつひとつ単純に考えれば、筋道だった推理も、決してそう難しいことではない。
11019 たとえば、そのような推理をしておいて、その筋の真ん中を少し向こうへやって、聞き手にその始まりと結論だけを見せようものなら、人をあっと言わせることができるわけだが、まあ、ほんのこけおどしだ。
11020 さよう、難しいことではない。
11021 君の左の人差し指と親指の間のすり切れた皮膚を考えれば、君が金鉱の株の購入を思いとどまったと確信できる。」
11022 「どういう脈略かね。」
11023 「そう思って当然。
11024 だが、僕にはその深い脈略を手短に説明できる。
11025 そこには、ごく単純な連鎖のあいだの、失われた輪がある。
11026 一、君は左の人差し指と親指の間にチョークをつけて、昨晩クラブから帰ってきた。
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