小説 (story)
11003 くすんだ灰色の毛と、黒い鶏冠を持った怪鳥—
11004 「だからワトソン—」とホームズが突然口を開く。
11005 「君は、南アフリカの証券への投資を思いとどまった。」
11006 私は驚きのあまり身を震わせた。
11007 このホームズの不思議な力に慣れているとはいえ、どうして私の胸のうちの考えに潜り込めたのか、皆目見当がつかなかった。
11008 「いったい、どうしてそのことを?」と、私は聞き返す。
11009 ホームズは椅子をくるりと回し、手に試験管を持ったまま、その深くくぼんだ瞳を面白そうに輝かせるのであった。
11010 「さあワトソン、ぐうの音も出まい」
11011 「まったくだ。」
11012 「では、この件について、君に証文を書いてもらわねば。」
11013 「なぜかね?」
11014 「五分後には、君はきっと『ひどく簡単な話だ』などと言うからだ。」
11015 「いやいや、そんなことは言わんよ。」
11016 「その、ワトソンくん。」
11017 ホームズは試験管を立てかけて、教授が講堂で学生たちに講義でもするていで話し出した。
Go to Dashboard (guest)