小説 (story)
10617 私は音をまったく聞かなかった——呼吸の音さえも。
10618 それでもホームズが私同様に神経を張り詰め、目を見開いて、数フィート離れた場所に座っていることはわかっていた。
10619 雨戸は外のわずかな光さえも遮って、我々は完全な闇の中で待った。
10620 外からは時折、鳥の鳴き声が聞こえ、一度は猫のような長い鳴き声が、部屋の窓の外で聞こえた。
10621 チーターは実際、野放しになっているようだ。
10622 彼方から教区の時計台の深い音色が聞こえ、十五分ごとにボーンと時を告げた。
10623 その十五分が、いかに長く感じたことか!
10624 十二時、一時、二時、そして三時が告げられ、我々は何が起きるかと、静かに座って、ひたすら待ちつづけていた。
10625 突然、通気口のほうから明かりが一瞬もれ、すぐ消えた。
10626 そして油の燃える強い匂いと、熱せられた金属の匂いがした。
10627 隣の部屋の誰かが、遮眼灯を点けたのだ。
10628 微かに何かが動く音が聞こえ、また静かになり、そして匂いは強くなった。
10629 半時ほど私は耳をすませて座っていた。
10630 そして突然、もう一つの音が聞こえてきた。
10631 やさしく、なだめるような、やかんから蒸気が吹き出しているような感じの音だった。
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