小説 (story)
10530 馬を駆る馬丁の小さい人影の横に、グリムズビー・ロイロット博士の巨体があった。
10531 馬丁は、重い鉄の門を開けるのにいささか手間取り、博士が激しいわめき声をあげて、馬丁に握り締めたこぶしを振り回すのが見えた。
10532 馬車はまた動き出し、数分後に突然居間の一つに光がパッと灯ったのが、木々の間から見えた。
10533 「ねえ、ワトソン」
10534 濃くなりつつある暗闇の中に、ともに座っていたホームズが言った。
10535 「君を今夜連れてきて、いささか後悔しているよ。
10536 今回は、はっきり危険な要素がある」
10537 「私は力になれるかな?」
10538 「君がいてくれて、この上なく助かっている」
10539 「では、私は来るべきだったんだよ」
10540 「感謝しているよ」
10541 「危険と言ったな。
10542 君は私に見える以上の何かを、この部屋で見たのだな」
10543 「いや、だが私は君よりちょっと推理してみただけさ。
10544 君が見たのと、同じものしか見ていない」
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