小説 (story)
10265 十二時の列車で帰るつもりですから、いらっしゃるまでには家に戻ります」
10266 「では、午後の早い時間に、またお目にかかりましょう。
10267 私自身、少々用事があるものですから。
10268 ときに、こちらで朝食でもいかがですか?」
10269 「いえ、もうお暇します。
10270 あなたにお任せした今、ずいぶん気が楽になりました。
10271 午後、お会いできるのをお待ちしております」
10272 彼女は厚いヴェイルで顔を隠して、部屋から静かに出て行った。
10273 「で、いったいどう思う、ワトソン?」と、ホームズは、椅子に身を預けて訊いた。
10274 「思うに、極めて凶悪で不吉な事件だね」
10275 「凶悪にして不吉。
10276 まさにそのとおりだ」
10277 「だが、あの女性の言うとおりに、床と壁がしっかりしていて、扉も窓も煙突も通り抜けることができないとしたら、彼女の姉は不思議な最期を迎えたときには間違いなく一人だったに違いない」
10278 「では、夜聞こえた口笛、そして瀕死の彼女の、あのなんとも奇妙な言葉はどう説明する?」
10279 「見当もつかないよ」
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