小説 (story)
10226 ホームズは、満足から程遠い、といった様子で頭を振った。
10227 「どうぞ、お話をお続け下さい」
10228 「それから二年が経って、ついこの間まで、私の生活は以前より、もっと孤独なものだったのです。
10229 ひと月前に、長年にわたってよく知っている親しい方が、私に結婚を申し入れて下さいました。
10230 彼の名前はアーミテジ……パーシー・アーミテジ、レディングの近くのクレイン・ウォータのアーミテジ氏の次男です。
10231 義父はこの結婚には何の反対もしませんでしたし、私たちは春の間に結婚するつもりなのです。
10232 二日前のことです。
10233 建物の西翼で工事が始まって、私の寝室の壁に穴が開けられたので、私は姉が亡くなった部屋に移らなければならなくなり、姉のベッドで眠ることになったのです。
10234 そして昨夜、目が覚めたまま横になって、姉のむごい運命のことを考えておりました折、突然夜の静けさの中で、姉の死の前触れとなった、低い口笛を私が聞いたときのぞっとする恐ろしさをご想像いただけるでしょうか。
10235 私は飛び起きて、ランプを点しましたが、部屋の中には何もありませんでした。
10236 再びベッドに戻るには心が落ち着かず、服を着て、朝日が昇るとすぐに大急ぎで、軽二輪馬車を向かいのクラウン・インで見つけると、レザーヘッドまで来ました。
10237 そして今朝あなたにお会いし、ご助言いただくことだけをひたすら考えて、こちらへ参った次第です」
10238 「賢明ななさりようでしたな」と我が友は言った。
10239 「ただ……すべてを仰っていただけたでしょうか?」
10240 「ええ、これですべてですわ」
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