小説 (story)
10097 母は、ベンガル砲兵隊の、ストーナー陸軍少将の若後家でした。
10098 姉のジュリアと私は双子で、母が再婚したときにはわずか二歳でした。
10099 母は、相当の額の財産を持っていて、少なくとも年に千ポンドの収入があり、これをそっくり義父、つまりロイロット博士に譲っていました。
10100 ただ私たち子供が結婚する時に、一定の金額がそれぞれに渡るように、という条件がありました。
10101 私たちが、イングランドに戻ってから、母が亡くなりました。
10102 八年前の、クルー駅近くの鉄道事故で亡くなったのです。
10103 ロイロット博士は、ロンドンで開業することはあきらめて、ストーク・モランの先祖代々の古い家で住むために、私たちを連れて行きました。
10104 母が残してくれたお金は、欲しいものは何でも買えるほどありましたし、私たちの幸せには、何の障害もないように思えたのです。
10105 しかし、このころ、義父は恐ろしく変わってしまったのです。
10106 近所の人は、ストーク・モランのロイロット家の一人として、義父が古い家に戻ってきたのを、初めは大喜びしてくれました。
10107 そのご近所と行き来して、友だちづきあいするでもなく、義父は家の中に閉じこもって、ほとんど出てきませんでした。
10108 そして誰であれ、私道を渡ろうとする人と激しい喧嘩をするのです。
10109 ほとんど躁病に近い気性の乱暴さは、家族の男たちに先祖代々共通するものです。
10110 義父の場合は、長い熱帯の生活で、余計に強まったのだと、私は信じております。
10111 みっともない大喧嘩がいくつもあり、そのうち二つは、裁判沙汰になりました。
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