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小説 (story)

まだらの紐をめぐる冒険 (spec)

10091    数エーカーの土地と、二百年前の、それも多額の抵当に入れられた家を除いては、何も残りませんでした。
10092    最後の郷士は、そこから何とか生きのびて、貴族出身の生活保護者として、みじめな暮らしをいたしました。
10093    しかし、その一人息子である私の義父は、新しい状況に立ち向かうため、親類から前借りして、その金で医学の学位を取って、カルカッタへ行って開業し、技量と押しの強さで大いに繁盛しました。
10094    しかし、ある時、盗みを働いた現地人の執事を、激怒した義父がなぐり殺してしまい、義父はもう少しで死刑にされるところでした。
10095    結局、義父は、苦しい投獄生活を長い間送り、後に失望した気難しい男となって、イングランドへ帰国したのです。
10096    義父がインドにいたとき、私の母、ストーナー夫人と結婚しました。
10097    母は、ベンガル砲兵隊の、ストーナー陸軍少将の若後家でした。
10098    姉のジュリアと私は双子で、母が再婚したときにはわずか二歳でした。
10099    母は、相当の額の財産を持っていて、少なくとも年に千ポンドの収入があり、これをそっくり義父、つまりロイロット博士に譲っていました。
10100    ただ私たち子供が結婚する時に、一定の金額がそれぞれに渡るように、という条件がありました。
10101    私たちが、イングランドに戻ってから、母が亡くなりました。
10102    八年前の、クルー駅近くの鉄道事故で亡くなったのです。
10103    ロイロット博士は、ロンドンで開業することはあきらめて、ストーク・モランの先祖代々の古い家で住むために、私たちを連れて行きました。
10104    母が残してくれたお金は、欲しいものは何でも買えるほどありましたし、私たちの幸せには、何の障害もないように思えたのです。
10105    しかし、このころ、義父は恐ろしく変わってしまったのです。

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