小説 (story)
10056 軽二輪馬車以外には、そのように泥を巻き上げる乗り物はありませんし、それも御者の左側に乗った時だけです」
10057 「どうしてお分かりなのでしょう、まったくおっしゃる通りですわ。
10058 私は六時前に家を出て、レザーヘッドに六時二十分過ぎに着き、ウォータルー駅まで朝一番の列車で着きました。
10059 ホームズさん、この緊張感にはもう我慢なりません。
10060 これ以上続けば、頭がどうにかなりそうです。
10061 誰も頼りにできる方がいないのです——ただひとりを除いては。
10062 でも、私を気にかけくれているその彼も、結局助けにはならないでしょう。
10063 あなたのことは、以前からお聞きしています。
10064 ファリントッシュ夫人から、あなたのことを伺ったのです。
10065 夫人が大変お困りのときに、あなたがお助けくださったと。
10066 彼女からあなたの住所を伺ったのです。
10067 ああ、どうか私も助けてはいただけないでしょうか、少なくとも私を取り巻くこの濃い暗闇に、小さな光を投げかけることは?
10068 今はあなたのお働きに報いることはできませんが、ひと月かひと月半ほどで私が結婚した後で、自由になるお金が入れば、私が恩知らずではないことをお分かり頂けるはずです」
10069 ホームズは机に向かい、鍵を開け、小さな事件簿を取り出して、のぞき込んだ。
10070 「ファリントッシュ、と。
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