小説 (story)
10053 彼は微笑んで言った。
10054 「あなたの上着の左腕が、泥で少なくとも七箇所汚れています。
10055 それも、ごく新しいものです。
10056 軽二輪馬車以外には、そのように泥を巻き上げる乗り物はありませんし、それも御者の左側に乗った時だけです」
10057 「どうしてお分かりなのでしょう、まったくおっしゃる通りですわ。
10058 私は六時前に家を出て、レザーヘッドに六時二十分過ぎに着き、ウォータルー駅まで朝一番の列車で着きました。
10059 ホームズさん、この緊張感にはもう我慢なりません。
10060 これ以上続けば、頭がどうにかなりそうです。
10061 誰も頼りにできる方がいないのです——ただひとりを除いては。
10062 でも、私を気にかけくれているその彼も、結局助けにはならないでしょう。
10063 あなたのことは、以前からお聞きしています。
10064 ファリントッシュ夫人から、あなたのことを伺ったのです。
10065 夫人が大変お困りのときに、あなたがお助けくださったと。
10066 彼女からあなたの住所を伺ったのです。
10067 ああ、どうか私も助けてはいただけないでしょうか、少なくとも私を取り巻くこの濃い暗闇に、小さな光を投げかけることは?
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